「今こそ私たちの水道について考えよう!」を開催
ピース・インターテーマグループ
30名を超える参加者が集まるなか、「最後の一滴まで」の上映と、本映画の日本語吹き替え版プロジェクトメンバーでいらした、橋本淳司氏をお迎えしてのトークイベントを行いました。
前半で上映された「最後の一滴まで ~ヨーロッパの隠された水戦争~」は副題の通り、ヨーロッパの水道事情を映し出したドキュメンタリー映画です。30年程前から水道の民営化が進められていたヨーロッパですが、パリ市やベルリン市で近年、再公営化されました。それは、民間企業が水道の運営を担うなか、料金の値上げや、利益報告不正、アンフェアな契約などが明らかになったためです。
昨年、日本でも水道法が改正され、いわゆる民営化が可能になりました。水道民営化の先輩であるヨーロッパの都市で、現在どうなっているか、是非とも、多くの方に見ていただきたい作品です。もう一つ、この映画の見どころは、ギリシャ、ポルトガル、スペインなど2010年の債務危機で打撃を受けた国々の一部に欧州委員会が民営化を押し付けているという二面性が鋭く描かれているところです。自国では民営化に失敗した企業がヨーロッパ南部の都市の水道事業で利益を得ようとしており、経済的な弱みから、人権の水が企業利益の道具にされる実態とそれに抵抗する市民の姿が描かれています。
映画鑑賞後、水ジャーナリスト橋本淳司氏にご登壇いただき、お話をうかがいました。トークでは、橋本氏の説明がとても分かりやすい上に、テンポがよく、時に笑いあり、大いに盛り上がりました。参加者から発言も次々に飛び出し、イベント後も橋本氏のもとへ質問に並ぶ参加者の姿が見られました。
今、日本で言われている水道の民営化とは、水道事業コンセッション方式(※)といわれるもので、完全民営化ではありません。そして、コンセッションを成功させるには、「公正な契約」と「管理監督」の2つが欠かせない、と橋本氏。映画の中に登場したヨーロッパの都市では、予定利益に満たなかった場合は自治体が補填するといった企業の利益が保証される契約がなされていました。税金を使って企業の利益が保証されるのです。どうして、このような契約がなされたのか。日本の自治体はこういった契約の失敗を犯さないでしょうか?また、長期にわたる契約(20年程度)の中で、水道事業に精通した人材を役所に監督役として維持することは可能でしょうか?そもそも、民間企業に透明性のある報告をさせることはできるのでしょうか? 理論上は「公正な契約」と「管理監督」で正しく行えそうなコンセッションですが、実際は問題が起きそうだ、ということがよくわかります。
(※)コンセッション方式…官民連携。所有権を行政が持ち続けて、運営権を民間に渡すこと。
しかし、民営化しなくても、多くの問題を抱える日本の水道。水道の未来についてもお話しいただきました。特に、地方では問題が深刻で、これからの人口減少時代に対応し、水道設備を上手にダウンサイジングしていくことが必要だといいます。岩手中部水道事業団を参考に、広域化による事例を説明してもらいました。 広域化メリットの一つは、設備の統廃合により多額の投資を削減できること。また、水道事業の人材不足は深刻で数人で事業をこなしている自治体もあり、日々の業務に追われ、将来の見通しを考える余裕がありません。そのような各自治体が統合することで、水道事業団として事業を担う人数が増え、中長期的に事業を考える余裕が生まれます。広域化だけでなく、雨水や沢の水を活用した小規模水道技術などの選択肢もあり、その地域にあった、設置・維持ともに省エネ低コストの選択を考えていかなければ地方の水道の未来は危ういとのことでした。
映画と橋本淳司さんのお話を通して、地域にあった水道の在り方を住民が選択して行くことが大切だと感じました。橋本氏の話にもありましたが、インフラ=infrastructureの structureは「構造」、infraは、「下」という意味で、infrastructureで「下支えする基盤・施設」ということになります。水道は人間の暮らしを下支えするものです。しかし、過剰な設備の維持やコンセッション、民営化は水道を人間が下支えすることになりかねません。そうならないためにも、私たちがどのような暮らしや街にしたいかに向き合い、ビジョンを持つことが重要なことだと気づかされました。そのビジョンの向こうに、これからの水道の在り方が見えるのだと思います。そのビジョンを一企業が決めて、それを市民が下支えするようなことにならないよう、市民一人一人がビジョンを持ち、役所と手を取り合いながら水道の未来を決めるべきだと思います。市民一人一人がこの「水」に向き合ってほしいと切に思います。